村上世彰(よしあき)氏率いる投資ファンド「MACアセットマネジメント」(通称・村上ファンド)が保有していたTBS株のほとんどを10月中に売却していたことが15日、同ファンドが関東財務局に提出した大量保有報告書で分かった。
村上ファンドは9月末時点でTBS株7.45%を保有していたが、報告書によると10月末時点の保有比率は0.52%で、7%弱を売却したことになる。村上ファンドは「純投資の一環としてすべてを市場で売却した。時期については明らかにできない」と説明している。村上ファンドはTBS株を取得後、TBS経営陣にプロ野球球団・横浜ベイスターズの売却や経営陣による自社株買収(MBO)などを提言していた。
TBSに経営統合を提案している楽天は10月12日時点でTBS株を15.46%保有し、同25日時点で19.09%まで買い増している。【TBS問題取材班】
(毎日新聞) - 11月15日17時31分更新
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村上ファンドが松坂屋の第4位株主に
http://www.chunichi.co.jp/00/kei/20051115/eve_____kei_____002.shtml
官僚出身の村上世彰氏が率いる投資ファンド(通称・村上ファンド、東京)が、百貨店大手、松坂屋(名古屋市)の株式を買い進め、八月末時点で3・21%(議決権ベース)を取得する第四位株主になっていたことが十五日、分かった。好調な業績や、都心に持つ不動産などの含み益への期待とみられる。
村上ファンドが保有する松坂屋株は、五百三十六万九千株。生命保険会社や金融機関に次ぐ株主となった。今春以降に取得を進めたとみられる。村上ファンドは「取得の経緯など具体的なことは一切話せないが、純粋な投資目的」としている。
松坂屋は「現時点で村上ファンド側からは接触がない。企業価値を高めるよう努力するだけ」としている。
松坂屋は、愛・地球博(愛知万博)の公式売店が好調だったことに加え既存店の売り上げも回復傾向。名古屋、東京の一等地の資産も評価され、株価が高騰している。
東京株式市場では、今年の最安値だった一月五日の四百二円から上昇、今月七日に年初来最高値の千九十四円をつけた。
村上ファンドの研究 (番外編)投げかける課題 本音はどこに
http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/special/85/murakami006.htm
阪神電気鉄道など上場企業の株式を大量取得して株主価値の向上を迫る「村上ファンド」が、日本の企業経営と証券市場に様々な課題を投げかけている。「会社は誰のものか」「投資ファンドはどこまで規制できるのか」――。村上ファンドを率いる村上世彰氏の“本音”に迫った。
◆社会的責任 株主にない
会社はだれのものか
村上氏は「企業の根本的な意思決定は、株主総会でなされる。マジョリティー(多数派)の株主の意見で決まる。株主の意見を反映する形で、企業が成り立っている」と“株主主権”を強く主張してきた。
これに対し、様々な有識者から、会社は顧客や従業員などのステークホルダー(利害関係者)なしには成り立たないとの指摘が出ている。特に、一橋大大学院の佐山展生教授は「大株主は良い会社にする責任があり、株主だけもうかったら良いというものではない」と、大株主としての責任を強調する。
しかし、村上氏は大株主でも少数株主でも株主責任は「全く同じ。商法に書いてある。(会社がつぶれた時に株式の価値が)ゼロになる責任だ」と否定的だ。さらに、「僕は株式投資をしている。それが5%でも10%でも、50%でも関係ない。どうやったら株式投資がもうかるかなと思っているだけだ」と話す。
社会的責任についても、「僕ではなく、経営者の責任だ。良い経営者を選んでくるのが、株主としての責任だ。例えば2分の1超取れば経営者を替えられる」との考え方を示している。
ただ、「(出資比率が)3割を超えたら社会的責任を考えた方がいい」(ソフトブレーンの宋文洲会長)との声は、村上ファンドの投資先からも出ている。
一方、投資先企業に増配や自社株買い、不動産売却などを迫り、結果的に株価が上昇すれば、保有株を売って利益を得る村上ファンドなどの手法についても、様々な議論が起きている。
村上氏は「1年間で10%もうけるのと、2年間で15%もうけるなら、1年間で10%を選ぶ」と公言する。
しかし、短期的な利益の追求については、企業年金連合会の鹿毛雄二常務理事が「一時的な配当をもらって、後はもぬけの殻では、長期的に持ち続ける投資家としてはだめ。長期的な企業価値にプラスになることが大事だ」と指摘するように、機関投資家にも疑問視する見方が少なくない。
これに対し、村上氏は短期的利益と長期的利益の利害対立は「まったくない」と言い切る。「増配とか自己株取得(自社株買い)とかで、どんどん株価が上がるなんて(そもそも)異常だ。いびつなマーケットがあり、そこにビジネスがあった」と議論はかみ合わないままだ。
◆ファンドの裏 列挙できぬ
実質株主の情報開示 可能か
自民党の田村耕太郎氏が10月20日の参院財政金融委員会で、「上場企業はガラス張りになっていく一方、それを買い占める側の方のディスクロージャー(情報開示)はいま一つだ」と指摘するなど、投資ファンドに資金を出す投資家(実質株主)が不透明な点も、論議を呼んでいる。
これに対し、村上氏は「ファンドの裏(実質株主)を見ようという国はない。ファンドの裏の投資家を(開示資料で)列挙しろと言ったら、(日本の証券市場に)金が入ってこない」と反論する。
反論の背景には、「世界で投資している人はほとんど一緒。オイルマネー、大学財団、大富豪、年金など(どの国でも)動いている金は一緒だ」という現状認識がある。村上氏が「(ある投資ファンドでの資金運用を別のファンドが頼む)ファンド・オブ・ファンズが広がって、100兆とか200兆(規模)になっている。うちもこの半年で、ファンド・オブ・ファンズの金が3分の1くらい入っている」と言うほど、複雑な資金の流れが起きている。
村上氏は「(市場活性化などのため、世界各国が)色のない金をなるべく自分の国に集めようという戦いになるから、なるべく(自分の国で資金)運用してもらいやすいメカニズムを作るべきだ。透明性を高めてもいいが、その結果、多くのお金が集まって、日本が良くなるかどうかで議論してほしい」と主張する。
実質株主の情報開示には、証券会社などの市場関係者も慎重だが、金融審議会(首相の諮問機関)などの今後の議論が注目される。
(2005年11月15日 読売新聞)
村上ファンドの研究 (1)変革者か 破壊者か
◆投資先27社 提案事例紹介“幻のホームページ”
http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/special/85/murakami001.htm
阪神電気鉄道やTBSなど上場企業の株式を大量取得し、「モノ言う株主」として経営改革を迫る「村上ファンド」。中核会社のM&Aコンサルティングが、かつて掲載していた“幻のホームページ”がある。
ニッポン放送や東京急行電鉄、あいおい損害保険などの主な投資先27社について、村上ファンドとしての問題認識や提案などが記された「事例紹介」だ。
例えば、出版大手の角川ホールディングスには「多大な剰余金」などを指摘して、「自社株取得」や「相乗効果のある企業との提携やM&A(企業の合併・買収)」を提案していた。
財務面の提案が多く、27社のうち、自社株買いが22社(81%)、ストックオプション(自社株購入権)導入は10社(37%)、増配が8社(30%)に上る。
◆増配要求
04年7月16日、即席めん「チャルメラ」で知られる明星食品の永野博信社長が東京・渋谷の本社で、村上ファンドを率いる村上世彰(よしあき)氏と向かい合っていた。
明星食品株8・17%を取得した村上氏が「株主利益を大事にしてほしい」として、本社ビルなどの固定資産や持ち合い株の売却、増配を求めたのに対し、永野社長は「株主優先が一番だとは思わない」と応じ、会談は平行線をたどった。
結局、明星食品は04年9月期連結決算の税引き後利益が前期比27%の減益にもかかわらず、年間配当は8円から15円に増配した。村上ファンドはこれを受け、12月に全株を売却した。
今年4月には、株式10%を保有する大阪証券取引所に対し、「内部留保を積み増す必要性を明確に説明できない限り、少なくとも年間の税引き後利益相当額程度(1株あたり2万円)を株主に還元すべきだ」と迫り、大証も05年3月期の年間配当を04年3月期の4000円から9000円に引き上げた。
◆価値上がった?
しかし、自社株買いや増配は目先の株価上昇にはつながるが、将来の収益に直接結びつくわけではない。
このため、「自社株買いは中長期的には、財務基盤を弱める。不動産を売却して配当に回すのでは社外流出だ。将来のために、お金をどう有利な方法に使うか提案しなければ」(北尾吉孝・SBIホールディングス最高経営責任者)との厳しい指摘も少なくない。
村上ファンドの投資先27社のうち、上場廃止などで比較できない3社を除く24社について、本業のもうけである営業利益(あいおい損保は経常利益)を直近の決算期と4期前とで比べると、14社は利益が増加したが10社は減少している。村上ファンドはほとんど売り抜けているとみられるが、本当に企業価値を高めたかどうかは不透明なままだ。
◆改善のきっかけ
「5年前、有名な村上さんの株式公開買い付け(TOB)にあったことが変革のきっかけになった」
村上ファンドが00年に敵対的TOBを仕掛けた電子部品会社、昭栄の渡辺憲二社長は9月の個人投資家向け説明会で、こう話した。
村上ファンドによるTOBは失敗に終わったが、昭栄はその後、不動産事業を強化する一方、リストラなど経営改革に取り組み、01年7月に174億円だった時価総額は05年6月に約3倍の538億円に達した。
設備工事大手の日比谷総合設備のように、村上ファンドの株取得を契機に、03年から決算説明会を開催するなど、情報開示の改善に取り組み始めた例もある。
株式取得をテコにして、上場企業に容赦なく株主価値の向上を迫る村上ファンド。ぬるま湯の企業経営者に意識改革を促す変革者なのか、短期的利益だけを優先し中長期的な企業価値は損なうかもしれない破壊者なのか――。評価はまだ定まっていない。
(2005年11月8日 読売新聞)
村上ファンドの研究 (2)見えぬ実態 増す影響力
◆オリックスから資本・役員
◆急成長
「村上ファンド」の業績の伸びは目覚ましい。
http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/special/85/murakami002.htm
中核の投資顧問会社で、2000年9月に業務を開始したMACアセットマネジメントの営業報告書によると、一般企業の売上高に相当する投資顧問料の収入は、02年3月期の1億226万円が、05年3月期には25億143万円へと、3年間で約24倍に急成長した。
急成長は、ファンド規模の拡大が支える。投資家が資金運用の判断をすべて投資顧問会社に任せる「投資一任契約」をMACアセットが結んだ資産の残高は、02年3月末の615億円が05年3月末には1653億円となった。05年6月末には1795億円に達した。受け取る投資顧問料も、その分増えたわけだ。
しかし、本当はそれすら“氷山の一角”に過ぎないのかもしれない。
村上ファンドは、グループの“司令塔”である経営コンサルタント会社のM&AコンサルティングとMACアセットが中核だが、その周辺に「エスエヌエフイー・マック・ジャパン・アクティブ・シェアホルダー・ファンド」「MAC2000投資事業組合」など、投資先企業の有価証券報告書などで確認できるだけでも、約10のさまざまな投資ファンド群がある。
このうち、MACアセットと投資一任契約を結んでいるのは、05年6月末でも5件に過ぎず、それ以外のファンドの資産残高は確認のしようがないからだ。実像がわからないまま、「今の状況なら、運用できる限界は4000〜5000億円」(村上ファンドを率いる村上世彰氏)という話だけが膨らんでいく。
◆親密な関係
外部で村上ファンドの実像を知り得る立場にあるのが、オリックスだ。
村上氏は通産官僚時代の90年代後半、コーポレート・ガバナンス(企業統治)ルール作りに取り組む中、オリックスの宮内義彦会長と知り合ったとされる。ファンドの設立時には「オリックスが(元手となる)シード・マネーを出した」(オリックス広報)という。
MACアセットの筆頭株主は村上氏の個人会社とされるオフィスサポート(46%)だが、現在もオリックスは45%出資している。MACアセットはオリックスの連結対象となる持ち分法適用会社で、業績がオリックスに反映されている。
社外取締役も送り込んでおり、初代は宮内会長の腹心とされる山谷佳之・社長室長(現オリックス・クレジット社長)で、3代目の林豊氏も社長室部長だ。
社外取締役は、村上ファンドの投資先を決める投資戦略委員会に参加していないため、オリックスは「運用資金に占めるオリックスの割合は低下しているし、投資先の決定に口を出すことはない」(広報)と話すが、投資先や資産規模が取締役会に報告されれば、把握できるのは確かだ。
さらに、子会社のオリックス証券は01〜02年に、個人が1口1000万円から村上ファンドに投資できる「アクティビスト投資事業組合」を募集していた。今でも、オリックス本体が法人向けに取り扱うなど、親密な関係は続いている。
「主な出資者は、米国の大学財団とか日米の年金とか、一部の機関投資家だ。(投資単位は)大きなところで400億円。一番小さな単位は現時点で10億円」
村上氏は10月8日の山口県での講演で、こう説明したが、「匿名性」の厚い壁に守られた投資ファンドの実態を、外部から検証するのは極めて難しい。それが市場参加者たちに、村上ファンドの“カリスマ性”を高め、影響力を増すパワーの源泉にもなっている。
(2005年11月9日 読売新聞)
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■特集記事(欽ちゃん、阪神関連)
欽ちゃんと阪神の問題に関して〜途中経過
欽ちゃん阪神買収状況〜途中経過
欽ちゃん買収企業先のライバルの動き
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村上ファンドの研究 (3)規制ギリギリの手法
◆「戦い」前に周到な準備
http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/special/85/murakami003.htm
「村上ファンド」を構成する投資ファンドの一つ、「MAC2000投資事業組合」が2002年7月、金融庁に法令解釈を照会した「ノーアクションレター(法令適用事前確認手続き書)」がある。投資事業組合が証券取引法上の「主要株主」に当たるかどうかについて、法令解釈を求めたものだ。
「主要株主」は、企業の議決権の10%以上を保有する大株主のことだが、村上ファンドは投資事業組合が10%以上の株式を取得しても、議決権は組合の構成員(投資家)の出資比率に応じて配分されるため、組合自体は主要株主に当たらないと主張した。主要株主は株取引の報告義務など、株主としての行動が制限されるため、そうでないことを確認する狙いだったとみられる。
金融庁は同9月、村上ファンドの主張をほぼ認める見解を示した。その効果は次第に表れてくる。
例えば、フェルト大手の日本フエルトは04年9月、村上ファンドの投資ファンド「MACスモールキャップ投資事業組合」が20・86%の株式を取得したので、筆頭株主がMACスモールになったと発表した。しかし、証券会社からノーアクションレターの存在を指摘されたため、同11月には主要株主には当たらないと訂正し、MACスモールの行動は制限がなくなった。
村上ファンドを率いる村上世彰氏が今年9月中旬、国土交通省鉄道局の幹部を訪ねた。阪神電気鉄道株を本格的に買い始めた時期だったが、村上氏は社名は明かさずに二つ質問した。
「鉄道会社の株を買っていて、もっと買おうと思っているが問題はないか」
「赤字路線を廃線にして会社の体質を強化するのに何か問題があるか」
村上ファンドの特徴は、「ものすごい時間とコストをかけて、できることは全部やる」(村上氏)こうした徹底した下調べにある。
株式取得にあたっては、対象企業の資産や財務状況に加え、業界事情を一から洗い直す。許認可業種であれば、直接役所にも規制などを聞く。自らの投資ファンドについても、金融庁の“お墨付き”を得ておく周到さだ。元通産官僚で、役所の行動パターンをよく知っていることも強みだ。
ただ、ルールを研究し尽くし、そのギリギリを突く村上ファンドの手法は、時に批判を招きかねない。
阪神電鉄株の取得では、株式を市場で買うだけでなく、市場外で新株予約権付社債を購入し、それを株式に転換して持ち株比率を高めたため、一部の専門家から「株式公開買い付け(TOB)を実施すべきだった」と疑問の声が上がった。
伊藤金融相(当時)も10月7日の記者会見で、「一般論として、市場内外の買い付けを組み合わせて3分の1超を所有することは、その態様によってはTOB規制の適用があると解釈される余地がある」と、村上ファンドをけん制した。
これに対し、村上氏は翌8日の山口県での講演で、「証取法や金融のルールは『イエス』か『ノー』で、道徳の世界ではない。ルールの枠組みの中で、どう戦っていくのかが根本だ」と強く反発した。ただ、「今はルールの中だが、今後はルールを変えないといけないのは大いにありうべしで、それはルールを変えればいい」とも述べている。
周到な準備に基づき、米国的な「シロかクロか」の価値観で攻め続ける村上ファンド。「法律違反でなければ何をやってもいいのか」という日本的な倫理観との接点は、なかなか見えない。
(2005年11月10日 読売新聞)
村上ファンドの研究 (4)発言ごとに存在感
◆「劇場型」に市場も追随
http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/special/85/murakami004.htm
楽天がTBS株15・46%を取得し、経営統合を提案した10月13日以降、市場の注目は、TBS株を9月末時点で7・45%保有している「村上ファンド」の動向に集まっていた。両者が連携すれば、持ち株比率は23%に迫り、TBSが苦境に陥りかねなかったからだ。
村上ファンドを率いる村上世彰氏は13、14日、テレビ各局のインタビューで、TBS株については「安ければ買うし、高ければ売る」と手の内を明かさなかった。
一方で、「IT(情報技術)企業の皆さんには、TBSは何でこんなに(株価が)安いのだろうと、よく言っていた。今日は楽天の名前が出ているが、明日以降、別のところが出てくるかも知れない」と思わせぶりな言い方もしてみせた。
よく聞けば、何も確かなことを言っているわけではないのに、聞く側が「TBS株はもう売っているのでは」「楽天とは裏で連携しているのでは」などと想像を膨らませる。そんな“村上マジック”が、村上ファンドの姿を大きく見せる。
今回のTBS株と似た状況だったのが、ニッポン放送株だ。ライブドアがニッポン放送株35%を取得したと発表した2月8日、市場は1月5日時点で18・57%を持つ村上ファンドの動向を注目した。村上氏は「当初は堀江(貴文ライブドア社長)君と足して50%を超えていたと思う。今は超えていないかも知れない」などと話すにとどまった。
村上ファンドは3月15日に大量保有報告書を提出したが、実際は2月末時点で3・44%に低下し、15・13%分は売却していた。
大量保有報告制度では、機関投資家でも10%超保有していると、1%以上売買すれば5営業日以内の報告が必要だが、18・57%から一気に10%以下に持ち株比率を下げた場合、翌月15日までの報告で済む。ルールのギリギリを突く手法は、この間、村上ファンドの存在を大きく見せ続けた。
「大きくなればなるほど開示をやめました」
村上氏は10月8日の山口県での講演で、ファンドの情報公開をあえて制限していることを明らかにした。かつて投資先の選定理由などを説明していた“幻のホームページ”も消え、情報の発信源が村上氏に集中する。講演では「多くても1兆円ぐらいが自分で運用できる限界だ」「中東からものすごいお金が来ます」などの話が次々と飛び出す。
しかし、こうした手法には、日興コーディアルグループの金子昌資会長が10月31日の都内のシンポジウムで、「一般投資家を巻き込んで、株価を上げたところで売るようなやり方はいかがなものか」と話すなど、批判も強まっている。
もっとも、村上ファンドの存在感を高めているのは、村上氏だけではない。
「MBO(経営陣による企業買収)をやりませんか」「私たちに新株予約権を割り当てて下さい」
都内のある企業の広報担当者は昨年、大株主に初めて村上ファンドが登場した直後、証券会社から電話を受けた。他の投資ファンドも含めて様々な「村上ファンド対策」の提案があり、その後5、6社が同様の提案を持ってきた。一般投資家に「村上銘柄」を売り込む証券会社も少なくない。
中核のMACアセットマネジメントが今年、大量保有報告書を提出した16社のうち、上場廃止となった阪神百貨店を除く15社の株価と出来高をみると、大量保有が判明した直後の株価は13社で前日比0・9%〜15・5%値上がりし、出来高は14社が1・6倍〜12・3倍に急増した。
村上ファンドの「劇場型投資行動」(金子日興コーディアルグループ会長)は、証券会社や他の投資ファンドなどが商売にすることで、より増幅していく。追随した個人投資家が、その構図を意識しているかどうかはわからない。
(2005年11月11日 読売新聞)
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■関連書籍
市場「淘汰」されるサービス業・顧客「選択」されるサービス業―サービス・プロバイダーが市場原理と国際競争にさらされる時代
村上 世彰, 小川 典文, 赤石 浩一
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村上ファンドの研究 (5)減るターゲット
◆戦略変化 利益どう生む
http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/special/85/murakami005.htm
「村上ファンド」が3月末に新設した投資ファンド「MACバイアウト・ファンド第1号投資事業有限責任組合」の登記には、事業目的として「公開会社の同一銘柄の議決権付株式の3分の1以上」の取得が明記されている。これは、村上ファンドの運用規模が4000億円に達したとされることと無関係ではない。
村上ファンドを率いる村上世彰氏は「(投資額が)1000億円のものを1社やるより、10億円のものを100社買う方が10倍しんどい。費用対効果を考えれば、パフォーマンス(運用成績)を上げるのは無理だと思う」と、経営に影響力を及ぼし得る水準まで株式を買い進める戦略を採り入れた理由を説明する。
実際に、村上ファンドは約1000億円を投じて、阪神電気鉄道の株式39・77%を買い集め、合併など重要事項に拒否権を発動できる「3分の1超」を初めて保有した。12月には、大証ヘラクレス上場のソフト開発会社、ドリームテクノロジーズの新株予約権付社債を引き受ける。株式に転換すれば、持ち株比率は過半数となる見込みだ。
日本証券投資顧問業協会の開示資料によると、村上ファンドの運用方針は、〈1〉純資産(有価証券及び不動産の含み益を加算)が時価総額の2倍以上〈2〉商法上の配当可能利益(または自社株取得枠)が時価総額の2分の1以上で、現金化の容易な流動資産が多い――などだ。「株価純資産倍率」(PBR)が1を下回り、遊休不動産や剰余金を多く抱える企業を対象にしてきたことがわかる。
しかし、この戦略にも陰りが見え始めている。
新光総合研究所によると、「PBR1割れ」の割安銘柄は、2003年1月には東証1部上場1497社中939社と、62・73%に上った。ところが、村上ファンドなど「モノ言う株主」の台頭で、増配や自社株買いに踏み切る企業が増えたこともあって、今年10月には17・15%(1662社中285社)まで減少した。
今春のライブドアとフジテレビジョンによるニッポン放送の争奪戦で名を上げてから、村上ファンドには巨額の資金が集まるようになった。一方で、「株価のゆがみ」を狙った運用方針に合致するターゲットは縮小し続けている。
そんな現実が、村上ファンドの運用方針に微妙な変化をもたらしている。
「年間20〜30%の利益」(村上氏)を期待されている村上ファンドが、阪神電鉄のように大量の株式を保有して、どう利益を上げていくのか。市場には懐疑的な見方も少なくない。
ここ数年で、証券市場の姿は様変わりした。上場企業の株式を5%超取得し、大量保有報告書を提出する株主には、外資も含めた投資ファンドが目立つ。
「村上ファンドは阪神電鉄の大株主だが、実際の中身はまったくわからない。経営権を握ろうとする人たちの正体が分からないのは問題だ」(中谷巌・多摩大学長)などと強い批判もあるが、市場では「大量保有報告書の提出を怠る投資ファンドすらあるのに比べれば、村上ファンドはルールの範囲内で活動している」との声があるのも確かだ。
米国的な「株主主権」が勢いを増す中で、企業にとって、真の企業価値向上とは何か。証券取引法など現行ルールに“抜け穴”はないのか。評価が相半ばする村上ファンドの存在は、様々な課題を投げかけている。(おわり)
(2005年11月14日 読売新聞)